経営者ダイジェスト No.510 56.10.15

長 谷 川 慶 太 郎
                著
グレゴリー・クラーク
内 外 人 が み た 日 本
(秀英書房 昭和56年7月 B6判 246貫1,100円)
 く紹介にあたって〉
 国際政治から経済事情,技術問題まで多方面に活動をする国際エコノミスト
長谷川氏と,オーストラリア人で知日家の上智大学教授G.クラーク氏が,日本
及び日本人について縦横に語り合った対談を一冊にまとめたのが本書。3章か
ら構成されていて,第1章「変容する戦後日本の内面」では,日本人の国家意
識や企業意識を,第2章「日本的なものをめぐって」では,日本企業の活力と
その源泉を,第3章「これからの国際外交」では,国際化時代に日本が選択す
べき途は何かを,それぞれ取り上げている。第2牽から,日本の企業経営の特
徴や従業員の意識についての両氏の見解,主張を抜粋する。(牛見)

         1.日本独特の行動基準

長谷川 日本企業のバイタリティが,家族主義にあるというクラーク先生のご
指摘には,私も同感なんですが,その一面で日本人というのは大変新しいもの
が好きですね。技術に限らず製品でも,経営方法でも。しかし特に経営方法に
ついては新しいものが好きなのに,その半面で,新しいものに対しては取り入
れることに非常に慎重というのか,ヘジティト(尻込み)するという感じがあり
ます。

 たとえば生産現場の改良という点では,日本ほどスピードの速い国はない。
ロボットの導入,ミニコンの導入にしても世界で一番進んでしチる。ところが,
企業の管理体制とか人事方式とか,人間にかかわることとなるとなかなか変え
ない。これはやはり日本の特徴ではないかと思うのです。
クラーク それは企業だけでなく,国全体にいえることです。外国人から見て,
もうひとつわからない日本の矛盾なのです。私たちから見て当然変えるべきと
ころを改善しない。非常に保守的なんですが,しかしある面では,非常に早い
対応をする。これは心的か頭脳的かという行動基準なのです。エモーション(感
情)プラス現実に対する戦略とか計画とか原理原則。日本人のこうした行動基準
は企業にとっては非常に適しているのではありませんか。
長谷川 特に70年代以降,これまでの行動基準で変わらないとされていたベー
スが変わると…。たとえば71年に通貨の固定相場制が変動相場制になった,73
年には第1次石油ショックと,経営の基本となるような問題がガタガタと変
わってしまった。

 そうすると,これにどう対応するかという時に,すべて新しいフイロソフイ
(哲学)をもって論理的に導き出されたものだけがポリシーになるのではなく
て,ゴタゴタしているように見えるのだが,何となくいつのまにか,個別の細
かい改良,あるいは改善というものが積み上がって状況の変化に対応する。こ
れが日本人の感覚です。状況の変化が大きかっただけに,逆に日本にとっては
大きいプラスになったのではないかと私は思うのです。
クラーク その場合,日本人は現実に対して非常に敏感です。これが行動の上
で大きな刺激になっている。外国人は状況は変わってもそのもとの戦略,原理
原則がどうしても残ってしまう。敏感さが日本人より劣る。

 外国は人事の面ではいつも新しい計画,発想などを導入しようとしている。
しかし人間はもともと保守的です。木の成長と同じで,1回土を入れたら動か
してはいけない。場所を動かすと木は枯れてしまうものです。人間もそういう
ものなのです。

長谷川 おっしゃるとおりです。人間というものは,だんだん年とともに経験
を積む。年とともに自分の技術あるいは知能の水準が上がってくるわけです。
その水準が上がってくることをどこまで大切にしてやるか。これが木を育てる
という感覚にピタリくるのではないかと思います。


         2.感情のドグマ化の限界


クラーク 外国人のアプローチは頭脳的です。頭脳的であれば合理的にすすむ
はずですが,しかしそこにも不合理な面があるのです。人間のルーツは日本人
でも外国人でも9割くらいエモーションでしょう。しかし外国人はエモーショ
ンを持ちつつ,自分の考えているものに理屈をつけ加えて正当化させます。そ
れが膠着状態を招くと同時に,ドグマ的になってしまう。日本人の感情はもっ
と流動的です,理屈がついていないから。外国人が合理的でない場合はドグマ
的,日本人が合理的でない場合は感情的となります。日本人が合理的であるの
は現実的,プラグマティックな場合で,ヨーロッパ人が合理的であるのは科学
的な場合です。ですから垣想的なのは,プラグマティック,プラス科学的なも
のです。日本人は主にプラグマティックですが,外国のいい科学,哲学などを
どんどん導入してきれいに組み合わせてきました。こうしたことは日本だけで
す。これは大きな力ですよ。
         
3.企業を支える文化と思想


クラーク 人間はグループをつくればグループのアイデンティティをつくらな
ければならない。そのアイデンティティには2つの基準しかない。ひとつは人
間のいわゆる本能的,自然な集まり,いわゆる「場」。ここに集まってくるのは
自動的なグループ,集まってこないのは外の人なのです。もうひとつの基準は
同じ資格を持っている人の集まり。ある資格を持っている人は入れるが持って
いない人は除外される。この2つの二者択一しかありません。これは日本でも
外国でも同じです。日本の場合前者を選んだ。部族,村,藩,そして企業,国
家という順番で日本は発展してきました。そしてそのグループの規準は最初か
ら最後まで変わりませんでした。前者の規準によっていまして,そのため外の
人を除外しています。

 外国人は,家族の場合は理屈抜きの集まりですが,家族と村以外のグループ
は理屈に基づいている基準を使おうとする。同じ資格を持っている人が入るの
です。したがって外国人は日本人に比較して排他的ではありません。

 企業の中で日本人は働きすぎとよくいわれます。それもグループを形成する
規準の違いであって,全く同じ問題なのです。実際,場合によっては日本人は
世界一の怠け者ですよ。というのは資格に基づいているグループの中,たとえ
ば,宗教とか大学の研究所とか,日本のお坊さんはいったい何をやっているか
わかりません。私の大学の神父たちは一生給料なしで毎日18時間働いていま
す。日本では,大学も教授会はよくやるが,5年間論文ひとつ発表しない学者が
4人に1人いるというb外国の経営者もよく働く。平日ゴルフや銀座バーはあ
りません。終了後も残った仕事を家まで持ち帰って宿題のようにやり,翌朝は
ジョギングをやって7時には席につく。日本の場合はどうでしょうか。

長谷川 もう反対ですね。重役出勤という言葉があるくらいです。

クラーク 頭脳的なインセンティヴ(刺激)がある場合は外国人は日本人より働
く。だが企業では頭脳的なインセンティヴは特にブルーカラーには不可能なの
です。そこにはエモーショナルな刺激しかありません。その場合日本人はよく
働きますが外国人は働かないのです。
        
 4.日本的経営と勤労意識


クラーク 日本の生産性は高く企業経営はうまい。したがって欧米も日本的経
営を導入すれば同じようにいくのではないかと議論されますが,しかしそれは
不可能なのです。 ̄日本人の基本的な精神の上に現在の経営のやり方が出来あ
がっていて,結果であり,原因ではない。日本的経営がなくても日本人はもと
もとよく働くのです。経営そのものは補助的なものです。したがって日本的経
営を外国へ持っていってもブルーカラーの中ではある程度効果はあるかもしれ
ないが,頭脳的ないわゆるホワイトカラーの場合はかえって逆効果になる。と
いうのは,外国の場合すべて権利一義務,全部契約で決められる。たとえば終
身雇用制をとり入れても,これはひとつの恩恵ですが,外国人はもちろんその
恩恵はよろこんでもらうが,それで忠誠心は出せないのです。
長谷川 今ブルーカラーについては日本的経営が外国人の場合でもうまくい
く,私はそのとおりだと思います。しかしホワイトカラーについては,初めか
らそのスタンドが違う,その身分の違いですね。逆にいうならホワイトカラー
の人たちにどうやってうまくワーキング・インセンチイヴを与えていくかとい
うことが,日本的経営を世界に広げていく場合にいちばん大きな問題となって
くるわけです。

 実際問題として,日本のブルーカラーもホワイトカラーもよく働きますが,
働き方の質がずいぶん変わってきた。新日鉄の名古屋製鉄所で−ホット・スト
リップ・ミルという連続圧延装置の機械を持っていて機械1台据えつけてから
昨年5,000万トン圧延したのです。まだあと5,000万トンは使えるという0普
通は1台で3,000万トンですから,3台分の仕事をするわけです。誰がそのよ
ぅにつくったかその工場長に聞いてみますと,「いや誰でもありません,全員で
やったのだ」と。結局全体としてのチームワークと,1人1人の労働者が非常
に高い技術を身につけているということです。
 また,日産自動車の座間工場では,6,000人の従業員がいて,5年前の昭和49
年当時の新規採用者が1,000んそれが54年には30人になった0このわずか
5年間でターン・オーバー・レートが1/30になった理由は2つある0ひとつは
ロボットの導入,もうひとつは給料が,それまでの出来高払いだったものを完
全月給制,固定給にした。それでぐっと定着率が上がったのです0
クラーク 日本の離職率が低い理由はもちろん100%忠誠心だけでは説明でき
ません。ある程度制度的な面があるからです0しかしなぜそういう制度が出来
たかというと,日本人にとって企業は自分の場であってそこから離れられない
組織になっているからです。
長谷川 しかし永い間の変化ではない0わずか5年間の期間での変化です0た
しかに日本人は100%忠誠心を持っているわけではない,むしろどのような
パーソナル.アドミニストレーション,人事管理をやっているかが,日本人の
ビヘイビア〈行動)を非常に大きく動かしているのです。


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