週刊東洋経済

1995.8.26 週刊東洋経済
世界中をガツカリ壱せる
日本人の 責任感覚
1995.5.27 週刊東洋経済
外務省主導『歴史
研究』に異義あり
1995.4.22 週刊東洋経済
円高の原因は
政府の無策にある
 戦後五〇年の節目は、先の太平洋
戦争について、日本人と外国人との
間に大きな認識の隔たりがあること
を明らかにした。
 多くの日本人は、原爆投下が日本
にもたらした悲劇や苦しみについ
て、外国人の理解は不十分だと感じ
ているようだ。しかし、こうした感
情は的外れであり、われわれ外国人
は、十分に理解しているつもりだ。
 日本人は原爆の悲劇ばかりを強調
するが、それに先立つ一〇年間に自
らが他民族に与えた大きな苦痛につ
いては口をつぐんでいるように見え
る。こうしたコントラストについて
は、日本に好意を抱く外国人でさえ
もガッカリさせられているが、そう
した状況に気づいている日本人はき
わめて少ない。
 日本では、欧米もアジアの植民地
支配では野蛮な行為を行っており、
日本だけが一方的に非難されるのは
不公平である、とい>γ指摘がある。
私も含めて、こうした議論を理解で
きる外国人もいる。そういう意味で、
戦後の東京裁判は、不適切な点が多
いといえる。無教育の兵士が感情的
な殺戟を繰り返すのは、どの戦争で
も見受けられるので、日本兵の野蛮
な行為も理解はできる。
 しかし、われわれ外国人が納得で
きないのは、正式な作戦行動の一環
として計画的に実施された拷問と虐
殺である。
 シンガポールでは、日本陸軍が一
八歳から五〇歳の男性に目隠しを
し、反日的と判断した人間をすべて
処刑したことがある。その結果、約
四万人が殺害された。同じような目
隠し虐殺は、他のアジア諸国でも繰
り返された。こうした忌まわしい殺
戟行為にかかわった日本人が戦争犯
罪人として処刑された場ムqそれを
不公正といえるだろうか。
 ところが、マスコミを含む日本の
世論は、戦争犯罪人の名誉をも守ろ
うとしているようにみえる。それが、
他の国々に対して、日本が悪質で計
画的な犯罪に対して何の良心の呵責
も感じていないという印象を与える
のはいうまでもない。
 今日、ドイツは自ら率先して戦争
犯罪者を見つけ、罰するという点で、
国際的に高い評価を得ている。別の
言い方をすれば、良いドイツ人と悪
いドイツ人を区別しているわけだ
が、日本もこれに見習うべきである。
 たとえば、パプアニューギニアで
は、戦時中、日本海軍に占領されて
いた地域の人々は日本に好意的であ
り、一方、日本陸軍の占領地域では
依然として反日感情が根強い。つま
り、戦時中でも占領地の手助けをし
た良い日本人がいたということであ
る。欧米の人々も、この事実は認め
るべきだ。だが同時に、日本も残忍
な悪い日本人が存在していたことを
認めなくてはならない。
 戦時中、アジア地域で恐るべき殺
教行為に故意に手を染めた人間に対
して、日本は処罰はおろか、その追
及にさえ真剣に取り組んでいない。
そうした現状を見るにつけ、外国人
の大半がウンザリした気分になるの
を、日本人はどのくらい理解してい
るのだろうか。  (上智大学教授)
日本では、二五歳と四二歳は男の
「厄年」といわれる。国家に厄年があ
るとすれば、おそらく二〇歳と五〇
歳だろう。米国はベトナム戦争から
二〇年目の苦難を通り抜けたが、ド
イツと日本はいま、第二次世界大戦
から五〇年目の節目を迎えている。
 これまでのところ、ドイツの苦し
みは日本より少ないようだ。ドイツ
は過去の過ちに対する真筆な「悔い
改め」を行い、欧米のかつての敵国
はこれを受け入れた。日本はアジア
諸国に「遺憾の意」を示したが、欧
米では、日本は罪の意識を表してい
ないと受け止められている。これが
近年、日本への風当たりが強まって
いる大きな理由と思われる。
 事実、私の母国オーストラリアで
も家人捕虜への残虐行為に関する責
任を認めようとしない日本に対し、
愴りの感情が根強く残っている。
 このほど村山首相が表明した「平
和友好交流計画L(一〇年間で約一〇
〇〇億円の予算規模)の中には、過
去の歴史を直視する研究事業がひと
つの柱としてある。この事業は、外
務省とその関係機関・国際交流基金
の管轄下で行われる。だが、強制連
行や従軍慰安婦の存在をかたくなに
認めず、多くのユダヤ人を救った外
交官・杉原千畝氏を辞職に追い込
み、米国の北爆政策を支持したのは、
ほかならぬ外務省ではなかったか。
その外務省が、過去の軍国主義に関
して、真の調査研究を進めることが
できるだろうか。
 すでに村山プランの一環として、
キヤンベラのある日豪研究機関に一
〇〇万豪jが拠出されることになっ
ている。しかし、進歩的な学者グル
ープからは、この研究機関は、これ
まで戦時中の歴史になんら関心を示
したことがない、という抗議の声が
上がっている。彼らの関心は、AP
ECなどの経済的関係の中で、いか
に日本の官僚と協力していくかにあ
る、というのだ。
 進歩的な学者グループは、日本の
戦時中の行為について造詣が深く、
村山プランの目的に大きな貢献がで
きるだろう。だが、おそらく彼らに
研究資金が渡ることはない。それど
ころか、別の研究機関への支援が大
きくなることで、日本での彼らの影
響力が弱められる可能性もある。
 戦後、日本はアジア諸国に対し、
壊滅的な打撃からの復興を支援する
ため、賠償金を支払った。だが、そ
の使われ方がいかにひどかったか
(とくにフィリピンにおいて)を、わ
れわれは歴史的事実として知ってい
る。ほとんどのカネは復興の手助け
とならず、腐敗した政治家たちが権
力を握るために利用された。その結
果、真の復興は遅れ、いくつかの国で
は革新勢力が不当な抑圧を受けた。
 さらに、そのカネは日本の保守勢
力や財界に還流し、社会党や村山氏
は長い間権力の外に追いやられてい
た。今回の村山首相の立派なイニシ
アチプが、それと同じ効果、すなわ
ち、日本の内外で保守勢力の影響力
を強め、真の歴史研究を妨げる効果
を発揮するとしたら、それはまった
くの悲劇としか言いようがない。
          (上智大学教授)

質問 阪神汲路大震災、二信組救
済スキャンダル、オウム真理教問題
の三者に共通する点は何か。
 答え 政府当局が緊急の問題に対
処するのが極めて遅か・つたこと。
 そして私は四番日の、しかも最も
深刻な問題として円高を挙げたい。
円高は日本経済に大きな打撃を与え
るだけでなく、それ自身に危険な下
方スパイラル効果を含んでいるから
だ。
 経済においては、多くの変化が白
己調整的、あるいは自己完結的であ
る。例えば、賃金が上昇しすぎると、
価格が上昇するため需要が減り、生
産が落ち込む結果、賃金は下落する。
また景気が過熱すれば、資金不足と
なり金利が上昇するため、景気は減
速する。
 しかし、円高は危険な悪循環をも
たらす。円高で輸出産業や輸入製品
と競合する産業が利益を失い、国内
景気が後退すると、ますます輸出圧
力が高まり輸入意欲が減退する。そ
の結果、貿易黒字が拡大し、円高が
さらに進行してしまう。企業が資金
を日本に還流させ、海外投資の意欲
をなくすことも円高圧力となる。さ
らに円高に伴う−カーブ効果で、ド
ル・ベースでみれば貿易黒字は短期
的にはむしろ拡大する。
 日太・企業独特の構造や、日本人特
有の心理も円高要因となっている。
日本企業は採算が取れないにもかか
わらず、輸出市場を確保し従業員の
雇用を維持するために輸出を続け
る。また、日本人はムードに影響さ
れやすく、不況心理が誇張されてし
まう。例えば消費中心のアメリカ社
会では、不況が二、三年も続けば自
動車やテレビの買い替え需要が出て
きて、景気回復に向かう場合が多い。
ところが日本では「他人が買わない
なら自分も買わない」という心理が
働くため、不況を長引かせてしまう。
 さらにアメリカでは、不況は通常、
それに先立つ二、三年の好景気の反
動という面が強い。だが、現在の日
本の不況は三〇年間も続いた「土地
・株神話」の反動なのである。
 こうした状況のなかで、日本は経
済の下方スパイラルから脱却するた
めにあらゆるドラスチックな手段を
取るべきだ。それは、1930年代
の大恐慌時代にアメリカが取ったニ
ューディール政策に匹敵するものと
いえる。公定歩合引き下げや規制緩
和もその一つである。だが、より重
要なのは、建設国債を発行してでも
要望の強いインフラ投資を早急に拡
大することだ。同様に、日本と海外
の両方で人々の心理を変化させるよ
うな新しい手段を、ドラマチックに
発表することも必要である。
 いま日本政府は、すべてを単純に
外国の投機家の責任にしている。そ
れは事実として正しくないだけでな
く(原因は国際経済のファンダメン
タルズ)、日本が投機をストップさせ
ることができないと表明することに
なり、心理的にもマイナス効果をも
たらしている。日本政府は、事態を
掌握しているという姿勢を緊急に示
さなければならない。そうでなけれ
ば、事態は悪化するだけだ。
        (上智大学教授)
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