週刊東洋経済
1994.3.12 週刊東洋経済
官僚の膨張を
コントロールせよ
適刊東洋鹿済1994.1.15
「第二の田中角栄」が
今の日本に必要だ
週刊東洋経済1993.12・11
APECは政策の
根本が間違っている
 日本では、官僚の役割に対する関心
が高まっている。これは、非常によい
ことだ。というのも、日本の官僚は強
大な権力者持っており、日本経済やア
メリカとの貿易摩擦への対処を誤った
ことに責任を負っているからだ。
 最近、私は政府と官僚の問題を議論
する総務庁主催のシンポジウムに参加
した。参加者の一人は、五〇年前の日
本は軍国主義に陥る誤りを犯したが、
その後は経済成長に専念し正しい道を
歩んできた、と述べた。しかし、実際
には、今日の官僚の問題は五〇年前の
軍国主義と非常に似ている。
 日本には、多様なグループがある。
それは、身体の細胞のようなものだ。
個々の細胞が成長し大きくなろうとす
ることで、日本のダイナミズムが生ま
れてくる。が、そこにチェックが働か
ないと、細胞はたちまちガンヘと変わ
ってしまう。
 幸運なことに、ビジネスの世界では
多様なグループがお互いに競争してい
る。こうした相互の競争がないとどう
なるか。例えば、これまで農協は際限な
く膨張を続けるかのように見えた。農
協にとって唯一の障害物は、時折聞こ
えてくる消費者の抗議の声しかなかっ
た。日本の過去の軍国主義もまた、軍
部という際限なく膨張するグループが
存在したことから起こつたのである。
 今日、日本の自衛隊は平和主義憲法
によってチェックされている。しかし、
日本には官僚という別のグループがあ
り、その膨張を防止する障害物はほと
んど無きに等しいのだ。
 日本では、内閣や政治家がもっと官
僚をコントロールすべきだ。一つの方
法は、代議士に多くの専門スタッフを
与え、立法や官僚のチェックの手助け
をさせるものだ。特に、大臣と政務次
官は自分の官庁をもっとコントロール
しなければならない。
 もう一つの方法は、すべての重要な
法案や政策提案に対する内閣のチェッ
ク機能を強化することだ。そのため、教
育や財政など特別な政策に関する内閣
委員会を設置すべきだ。イギリスやオ
ーストラリアでは、主要な提案は内閣
で徹底的に調査され議論されている。
 確かに大臣、特に日本の大臣は忙し
くて、十分な時間を政策の検討に費や
すことができない。それならば、内閣
と官庁の間に特別な機関を作ればよ
い。何年も前のことだが、私は、オー
ストラリアの首相内閣省でアドバイザ
ーとして働一いていたことがある。この
省は、首相と内閣にアドバイスするの
が仕事で、各省庁から出される法案や
政策提案は、すべてこの省でチェック
されていた。おそらく、日本でも同様
のシステムが可能だろう。
 戦後、日本は軍部が再びカを持つこ
とがないよう、シビリアンコントロー
ルの原則を取り入れてきた。今日の日
本に必要なのは、官僚が余りにも強力
にならないよう、政治的コントロール
の原則を導入することなのだ。
           (上智大学教授)
 故田中角栄氏の古いテレビ・フィル
ムを見ていると、彼が日本の首相を務
めたのがほんの二〇年前のことだとは
信じがたい.田中氏の乱暴なしゃべり
方は、まったく別の時代のものに見え
る。それでも、日本人の多くが彼に親
しみを感じているようだ。
 それは私にも理解できる。確かに、
田中氏が政治腐敗を助長するうえで果
たした役割を忘れることはできない。
しかし、田中氏の列島改造論は評価に
値するものだ。彼は、日本全土で必要
とされている高速道路や新幹線の建設
に刺激を与えたのである。いまや日本
は、第二の田中氏を求めている。それ
は、日本経済が下方スパイラルに落ち
込むのを防ぐために、公共投資をさら
に拡大するためである。
私が日本で理解しがたいのは、大型
の公共投資を実施するのを渋ること
だ。景気に関する最近のテレビ座整玄
で、著名な評論家が公共投資を軽蔑し、
日本ではもう道路の「掘り起こし」は
必要ない、と言っていた。他の出席者
も、公共投資に必要な土地代の高さを
心配していた。
 私は東北新幹線が開通した日をよく
覚えている」その日私は福島県の白河
で約束があり、行き帰りに新しい新幹
線を使った。白河ではオープニング,
セレモニーが行われていた。しかし、
皐月に戻って私が全国紙で目にしたの
は、東北新幹線の建設コストが高いと
いう不満と、上題新幹線は田中新幹線
であるという批判であった。
 私も、日本の公共投資には政治腐敗
や高い建設コスト、重要な道路や新幹
線よりも下水道や港準河川に資金が
回るといったバイアスなど、多くの問
題があることは理辞している。しかし、
 これらは是正することができる。特に
 日本のように高い宴m度を持った国
 では、新しい道路や鉄道から得られる
経済発展効果は非常に高いという点
を、もっと認識する必要がある。
 大蔵省は、公共投資のための国債発
行で財政負担が高まると心配する0し
かし、東北新幹線で生じた追加的な税
収だけで、十分にその建設費を賄うこ
とができるだろう。実際、東北、上越
の南新幹線とも乗客は当初見込みより
多い。大蔵省は公共投資に対してあま
りにも保守的だ。都心部における恒常
的な交通渋滞の原因は、60年代に、三
車線の環状道路を都心部に作る計画に
大蔵省が反対したことだと聞いてい
る。
 テレビで評論家が「掘り起こし」を
憂えているのを聞いた日、私は車で、
綱島街道を通って重点から川崎まで移
動した。丸子橋では、三〇分以上も待
たされた。新しい棉を架けるのに「掘
り起こし」は必要ないし、高い土地を
写っ必要もない。一方、新しい棉を作
れば、昼夜にわたって約二〇年間も続
いてきた交通渋滞をストップさせるこ
とができる。そして、それが日本経済
を刺激することになるのである。
        (上智大学教授)
 外交には鉄則がある。すなわち、政
策の根本が間違っていれば成功はあり
えない、ということだ。
 今回のアジア太平洋経済協力閣僚会
議(APEC)も例外ではない。AP
ECは1960年代に、日本や西側の
学者が日本とアメリカ、カナダ、オー
ストラリア、ニュージーランドで自由
貿易圏(PAFTA)をつくろうと呼
びかけた、きわめて非現実的な提案に
さかのぼる。日本経済を西側経済に強
固に組み込もうとした、西側と日本の
保守勢刀の試みの一つであり、他のア
ジア諸国を排除するものだった。
 長い年月を経て、こうしたAPEC
のコンセプトはいくらか変化した。し
かし、現在でも親アメリカというバイ
アスは残っている。さらに、最大のメ
ンバーである中国が依然として統制経
済であるにもかかわらず、なんらかの
自由貿易共同体をつくりたいという非
現実的な望みを捨ててはいない。
 こうした状況のなかで、他のアジア
のメンバーが、APECの目的や方向
性に疑問をもつのは避けられないこと
だ。特に、APECにおいて指導者的
地位を得たいと努める一方で、北米自
由腎易協定(NAFTA)を形成しょ
うするアメリカには、多くの矛盾があ
る。NAFTAは、アジアからの輸出
や投資を犠牲にすることで、ラテン・
アメリカ市場におけるアメリカの特権
的地位を確保しょうとするものだから
だ0アメリカのAPECに対する熱意
は、同地域におけるアメリカの権威を
維持するという、政治的なものだ。
 マレーシアが東アジア経済協議体
(EAEC)構想を提案したのも、こう
した理由からだ。EAECは、APE
Cのアジアのメンバーは含まれるが、
アメリカは排除されている。この提案
には意味がある。欧州と米州がそれぞ
れ保護主義的な貿易ブロック形成に動
くなかで、アジアにおいても同様のブ
ロックが求められているのだ。アメリ
カは当然EAECに反対したが、日本
もさまざまな理由から、アメリカを支
持するのが義務ヒ感じている。
 外務省は、こうした反マレーシア‖
親アメリカ政策がどれだけ危険かを、
理解しているのだろうか。もちろん、
マレーシアがアジアで孤立していると
いうのなら話は別だ。しかし、ASE
ANの大部分はマレーシアに理酵を示
している。さらに中国がEAECを支
持すれば、日本にとって最悪の状況が
生まれてくる。それは、日本とおそら
くは韓国が親アメリカ陣営として孤立
し「中国が他のアジア諸国のリーダー
として浮上してくることだ。
 こうした事態は、現実に起こりつつ
ある。仮に日本が妥協しEAECを承
認したとしても、日本の立場は弱くな
るだろう。日本はアジアに完至にはコ
ミットして′いない、とみなされるのだ。
つまり、APECにおける根本的な政
策の誤りが、日本が今日、正しい政策
を打ち出すことを不可能にしているの
である。      (上智大学教授)
1994.3.12 週刊東洋経済 適刊東洋鹿済1994.1.15 週刊東洋経済1993.12・11


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