週刊東洋経済
1993.11.13 週刊東津軽済
日本経済は屋根の下の
枯れかかった芝生
1993.9.18 週刊東洋経済
日本は今でも「民は
知らしむべからず」
1993.8.7 週刊東洋経済
小選挙区制採用
ひと工夫がほしい
 成田空港の新しいターミナルの脇に
広大な芝生が広がっている。オープン
当時、その芝生はよく手入れされ、利
用者を大いに和ませてくれた。ところ
が残念なことに、この芝生には問題点
があった。それは、全体が大きな屋根
三覆われていることだ。その結果、日
光が十分行き届かず、いまでは芝生は
完至に枯れかかっている。
 日本経済の現状をみるにつけ、私は
この芝生のことを思い出す。生産性の
高い企琴進んだ技術、優れた経営、
効率的な輸送システムといったさまざ
まなル経済の芝々を張るために、多く
の日本人が細心の注意を払いながら、
辛粗強く働いてきた。だが努力の大半
は経済のミクロ分野に向けられ、全体
を取り巻くマクロ環境へは誰も関心を
示さなかったようだ。
 しかし、いかに高生産性の経済であ
っても、その製品に対する需要を欠い
ては宝の持ち腐れだ。日本は今日まで
外雫主導型できたが、それは海外の反
日感情と円高を招いただけだった。
 内需を忘れた理由の一つは、日本社
会における階級意識の薄さである。こ
れは、日本のエコノミストさえも触れ
ていない。西欧の評論家は、日本人の
質素なライフスタイルや高い貯蓄率
は、日本人の恐るべき犠牲的行為と不
安感に由来していると考えがちだ。し
かし実際は、日本では西欧と異なり、
他人に自分の階級的ステイタスを誇示
するためだけに、高価な住宅へ大枚を
はたく必要がないという事実によると
ころが大きい。
 こうした日本の状況では、他に震要
の源泉を創出する必要がある。かつて
は、個人消費の不足分は旺盛な民間設
備投資により埋め合わせることができ
た。高成長の終焉で設備投資は急減し、
こうしたパターンを続けることはでき
なくなった。だが、神風が吹いた。そ
れは第一次、第二次石油ショックによ
る円安効果とバブル経済だった。
 しかし、今後はこうした神風が期待
できそうになく、内需拡大が緊急課題
となる。規制緩和では不十分で、効果が
現れるまでに時間がかかる。所得税減
税は、単に国内貯蓄を高めるだけだ。
内需拡大策の手段は、唯一、公共投資
の増大である。
 日本政府は財源不足を指摘するが、
それには三つの解決策が考えられる。
@増税のための税制改革。ドイツでは
公共投資の拡大で土地の価値が上昇し
た場ム巧それに対し課税する制度があ
るが、日本も同様の制度を採用するこ
と。A建設国債の発行に憶病にならな
いことだ。現状では、開発効果に対する
政府の見積もりは低く、その計算を正
確に行えば建設国債の発行にもっと大
胆になれるはずだ。B公共投資では、
民間や第三セクターの投資を促進す
る。.例えぼ民間企業なら道路公団より
も迅速に、かつ低コストで有料道路を
建設できる。道路の建設費用は、通行
料の収入で十分カバーできるだろう。
          (上智大学教授)

 最近、私はテレビ朝日の「朝まで生
テレビ」という番組への出演依頼を受
けた。番組のテーマは「日本における
官僚の役割」であり、四つの省庁から
代表者が一人ずつ議論に参加した。                          
 日本では多くの人が、官僚を傲慢で、
排他的な傾向が強いと批判する。しか
し、外国人の大半は違ったイメージを
持っている。他の国と比較して、日本
の官僚は教育水準が高く、経験も豊富
で、国益を発展させることに絶えず腐
心しているように見えるのだ。
 しかし議論が進むにつれて、こうし
た印象は変化し始めた。どこか変だな
と最初に思い始めたのは、一人の官僚
が日本の制度は他国に比べて優れてい
ると主張したときだった。その理由は、
日本では米国のような犯罪や麻薬など
の問題が存在しないからだという。し
かし、西側諸国でそうした問題とは無
縁の囲も多い。もし日本社会の安全性
が高いとすれば、それは日本の官僚の
優秀さよりも、日本人自身の気質に根
ざしているところが大きい。
 討論で最もイライラさせられたの
は、質問をはぐらかそうとする官僚の
巧みなやり方である。一般国民との+具
面目な対話で、そうした手法を使うの
は国民に対する一種の侮辱である。例
えば日本の法外に高い航空料金が批判
されたところ、ある官僚は自分たちで
も旅行する時は同じ料金を支払わなけ
ればならないのだから、批判されては
たまらないと反論した。
 もっとひどい例は、ある銀行から他
の銀行への送金手数料がどうして六〇
〇円もするのか、私が質問した時だっ
た。西側諸国では送金はほとんどが小
切手で行われるため、その手数料は通
常一回当たり五〇円以下である。
 それに対する回答は、@日本では米
国と異なり、小切手を作るコストがゼ
ロである、Aある銀行サービス料金は
高いかもしれないが、それは米国型の
銀行倒産から預金者を保護するための
結果である、というものだった。
 私の反論を言わせてもらえば、@は
基本的に間違っている。確かに日本で
は小切手を切るのはタダかもしれない
が、小切手の取り扱いは面倒であり、
小切手を口座に預金しようとすると、
場合によっては、四〇〇〜六〇〇円も
かかることもある。Aについては、結
局、バブル期の銀行や大蔵省の怠慢に
よる損害から身を守るために、預金者
は自らコストを払わなければならない
と言っているのと同じである。これは
決して、誇れることではない。米国を
除くほとんどの西側諸国では、銀行は
倒産していない。しかし、ユーザーは
べらぼうなサービス料や人為的に低く
設定された預金金利を強制されたりは
しないのである。
 討論の後で、大島渚監督が徳川時代
            ことわ一首
にはやったと言われる諺を教えてくれ
た。それは「民は寄らしむべし、知ら
しむべからず」というものである。日
本はその時代からたいして変化してい
ないように思える。 (上智大学教授)
 日本は不思議な国である。
 金丸副総裁逮捕という日本の政治史
上、最悪のスキャンダルをきっかけに
して、自民党は分裂し総選挙に突入し
た。選挙の結果は、社会党の歴史的大
敗北であり、金丸副総裁が君臨した旧
竹下派のメンバーからなる新生党は勝
利をおさめた。しかしその結果は、政
治改革派の勝利として歓迎された。
 選挙後はどの政党も政治改革を唱え
始めたが、建設受注制度の抜本的改革
などで第二、第三のスキャンダル発生
をどう防止するかまでは議論がおよば
ない。彼らの議論は、選挙制度の部分
的な手直しをいかに実行するかに関し
てのみ時間が費やされている。そうし
た手直しに対しては、改革派陣営の一
部が反対し、逆に自民党の一部が支持
を表明している。こうした混乱ぶりを
見るにつけ、どうして選挙が必要だっ
たのかと首を傾げたくなる。
 ミステリーは、さらに続く。改基丁派
が追求している抜本的な改革は、中選
挙区制から小選挙区制への切り替えで
ある。しかし小選挙区制は、ドイツ方
式の比例代表制を併用したとすれば、
大政党やその中央組織の権力を強化す
る方向へ作用するだけだ。それはどう
見てむ、大改革とは言えない。
 利益還元に熱心な政治家、大きな後
援会を抱える政治家を支持する傾向の
強い日本人の性向や自民党内の派閥制
度を考えた場ム弓中選挙区制には確か
に問題が多い。しかし一方で、独立系
の候補者や少数政党の候補者も当選で
きるという重要なメリットもある。一具
に民主的な制度という点では、このメ
リットはとても重要である。
 オーストラリアは、小選挙区制を採
用している。しかし、有権者は一人の
候補者だけに投票するのではない。有
権者は、すべての候補者に対して一、
二、三=…・と優先順位を打たなければ
ならない。そして集計ではまず、一の
番号の最も少ない候補者が除去される
が、その候補者が獲得した票は死票に
はならず、二の番号が記入された候補
者へ再分配される。このように次々と
再分配されて、最終的には最も多くの
番号票と再分配票を獲得した候補者が
当選になる。
 その結果、少数政党の候補者でも当
選する可能性が出てくる。例えば、独
立系の候補者は有権者に対し大政党を
含む他の政党へ投票し、自分白身には
二か三の番号を記入するように訴える
かもしれない。もし彼がこうした再分
配票を数多く集めることができれば、
大政党の候補者でも打ち破ることがで
きる。・独立系の候補者はそうした再分
配票を集めようとして、他の政党と交
渉しようという気持ちにもなる。その
場ムq彼の政策は、今日の日本でみら
れるように選挙の後ではなくて、選挙
の前にこそ公表され、議論されなけれ
ばならない。これは、なかなか興味深
い制度である。これまで、日本で真剣
に議論されてこなかったのは残念なこ
とだ。      (上智大学教授)
1993.11.13 週刊東津軽済 1993.9.18 週刊東洋経済 1993.8.7 週刊東洋経済


Home